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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

「それではお前をためす意で、少し無理なことを云いつけようかしら」

そこは松倉屋の女房の部屋で豪奢な調度で飾られていた。

その部屋に坐って話し合っているのは、女房のお菊と気に入りの手代の、二十歳になる京助とであった。

お菊と京助

「それではお前を験すつもりで、少し無理なことを云いつけようかしら」

こう云いながら立ち上ったのは、松倉屋の女房のお菊であった。濃い眉毛に大きな眼に――その眼はいつも潤っていて、男の心をそそるような、艶きと媚びとを持っていた。――高慢らしい高い鼻に、軽薄らしい薄手の唇に――しかしそういう唇は、男の好色心を強く誘って、接吻を願わせるものである。――お菊の顔は美しかった。と云ってどこにも一点として、精神的のところはなくて、徹頭徹尾肉感的であった。

で、立ち上った立ち姿などにも、そういう肉感的のところがあった。発達した四肢、脂肪づいた体――乳房などは恐ろしく大きいのであろう、帯の上が円々と膨らんでいて、つい手を触れたくなりそうである。女の肉体は肩と頸足と、腰と脛との形によって、艶っぽくもなれば野暮ったくもなる。お菊の肩は低く垂れていて、腕が今にも脱けそうであった。