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きけいのてんにょ
畸形の天女
江戸川 乱歩
「宝石 第八巻第十一号」1953(昭和28)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,893 字 · 35 页
「そういうわけです。一つ好意あるご考慮を願いたい。僕の方では、社の浮沈に関する問題ですからね」
と、宮城社長に哀願の眼を向けた。
「わかりました。できるだけ、ご希望に添うように考えてみます。よく相談して、二、三日うちに、こちらから、お電話しますから」
立ちあがって、客を見送る用意をした。客はちょっと失望の色を見せたが、丁寧に挨拶して、もう一度哀願の目遣いをして、社長室を出て行った。
宮城圭助は、それを見送ると、今の商談をまったく忘れ去ることにきめた。すべてを記憶していたのでは仕事ができない。覚えておくことと、忘れてしまうことを機敏に判断して区別けするのが、彼の商売上の習慣であった。
それから、隅の席にいるタイピストに、簡単な手紙を三通ほど口述して、帽子掛けの前に行った。そこの鏡で、赤い糸のまじった派手なネクタイを、ちょっといじくり、目がねをかけなおしてから、合オーバーに手を通し、ソフトの前とうしろを両手で持って、丁寧にかむった。それから、デスクにもどって、一ばん下の大引出しから、ひどく大きな書類鞄を取り出して、大事そうに小脇にかかえた。宮城社長の大鞄は有名だった。