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きけいのてんにょ

畸形の天女

江戸川 乱歩

「宝石 第八巻第十一号」1953(昭和28)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,893 字 · 35 页

青空文庫

彼の唯一の道楽は古本蒐集で、ひまさえあれば古本屋あさりをやった。そのとき次々と買い求めた古本を入れるための大鞄なのだ。社員や彼の友人は、その鞄の中にぎっしりつまった、珍らしい和本などを、自慢らしく見せつけられることが、よくあった。

彼は、おじぎしているタイピストに、右手をあげて挨拶して、社長室のドアをひらいた。社員たちは、まだ仕事をしていた。机にかじりついているもの、電話で話しているもの、今そとから帰って鞄の中の書類を取り出しているもの、タバコのけむりをもうもうと漂わせながら立ち話ししているもの、全体に活気にみちていた。宮城社長は、そのあいだを、ニコニコして、おじぎをする社員に右手で挨拶を返しながら、出口の方へ歩いて行った。ボーイのひとりが駈け出してきて、ドアをひらいた。べつに社員たちに言いのこすこともなかった。宮城貿易商社はアメリカのスコット商会とうまくやっているので、この不況時代にも、社運は上昇線をたどっていた。

ビルの石段をおりると、運転手がキャディラックのドアをひらいて待っていた。

「東京会館」

ここで中学の同窓が五、六人集まるということにしてあった。