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つぶてしんじゅう

礫心中

野村 胡堂

「富士」1935(昭和10)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,190 字 · 28 页

青空文庫

「自体、越前守様望みが大き過ぎたのじゃ、肥前唐津から、遠州浜松に国替を願出たのも、ただ老中になり度い為――、老中になれば今度は大手柄を立てて、昔の柳沢出羽守のように、幾十万石の大大名にも出世し度い、――限り無い慾の恐ろしさ、下々の難儀も顧みず、無暗に手荒な改革を思い立たれ、それを手柄と思って居られる、今度は印旛沼の埋立てじゃ、江戸十里四方の土地の召し上げじゃと、出来ない相談を持出して、御老中若年寄始め、御三家諸大名を驚かして居る」

何んと言う舌でしょう、越前守のやった一番無法なことは、悉く自身の発意と煽動だったことも忘れ、漸く上下の人心の去りかけた越前守を、裏切ろうとする甲斐守だったのです。

「そのような悪いお方の下に、使われてお出なさる御前様は? なぜ思い切って奉行をおやめになりません?」

お豊は激しく突っ込みます。

「それを思わぬでは無いが、越前守様が老中では、幾人奉行が代っても何んにもならぬ、予なればこそ、容捨も手加減もあり、越州様思召より手緩く手緩くといたして居るが、万一酷烈無比な奉行が後釜に据って、此上町人苛めをしたら何んとする」

甲斐守は自分の言った嘘に陶酔して、両眼に涙さえ浮べて居るのでした。