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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

03 みなかみ帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 页

青空文庫

「ここへさえ、火を咥えた鳥が訪れたことがある」

湯殿の竹窓ごしに、あかがねのような夕空を見ながら、正成は思い出していた。

かつて都の若公卿が、身を山伏にやつして、暮夜ひそかに門を叩き、北条幕府の悪政をそしり、そして、みかどを中心とする世直しの急を説いて、加担の血判せよと、自分へせまったことがある。

――お答えは、熟慮の上で。

と、そのときは、やっと逃げたものの、以後、幾たびも密々な訪ねをうけた。

日野朝臣俊基だった。

はたせるかな、事漏れて、その朝臣は、鎌倉へ曳かれたが、どう言いのがれたか、この春、ふたたび河内辺に姿を現わし、ここへは来ぬまに、どこかへ立ち去ったと聞いている。

「まずは、よかった」

いつわらぬ心では、正成はそう思っていた。

しかし、火の鳥は、いつのまにか、ここらの郷武者の間に、卵を孵していた。彼の肉親のうちからも孵っている。弟の正季などもその一人だ。

「よい機、こよいは、正季の胸も、一つ訊いておこうわえ」

やがて書院で、その弟と、夜の膳を共にしたときは、あらかじめ、彼にはそんな気も抱かれていたのであった。

が、正季は、好きな杯も、まずおいて、