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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

03 みなかみ帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 页

青空文庫

――はて、的場のお集いでもあるのかと、近づいてみると、蔵の口から的場へかけて、驚くべき数量の武器やら甲冑が干しならべてあるのだった。

「ははあ、お風入れか」

老人は、眼をほそめた。治にいて乱を忘れず、の共感なのかもしれなかった。

が。――正季の姿は見えず、虫干しの莚には、数名の具足師や弦師らが、弓を調べ、具足のつづれなどを縫っている。

「これこれ。御舎弟は、どこにおいであられるな?」

その声に、莚の上から、ひょいと顔を上げたのは、先頃からここに滞在仕事をしていた住吉の具足師柳斎だった。

柳斎はすぐ腰を上げ、

「は。殿はお蔵の内です。お取次ぎしてまいりましょう」

と、駈けて行った。

土倉の口から、やがて、正季が顔を見せた。――その下へ、すすみ出て、恩智左近は、その白髪あたまを、うやうやしく下げて、いかにも爺らしい儀礼で言った。

「山田申楽の一同、今日、国もとへ立ち帰りました。これにて、雨乞い諸事の儀も、つつがなく終りましたわけ。――で、その帰途、御門前を通りかかりましたので、右をちょっと御報告までに」

「そうか。爺も、やれやれというところだな」

「ここはまた、たいそうお取り込みのようで」