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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

03 みなかみ帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 页

青空文庫

手持ちの兵は少ないし、よしんば、兵力があったにせよ、散所ノ太夫を相手とすれば、たちまち、合戦の端となる。

公卿のうごき、寺院の呼応、そうなれば、一切は予測しがたい。――また当然、六波羅探題の指令もなければ、出来うる芸でもないのだった。

「この上はただ、主脳の御決断を待つばかり……」

鬼六は、毎日のような地だんだのうちに、六波羅の指示を仰いで待った。――日ならずして、早馬は帰って来た。が、意外にも、

「すぐ引揚げよ」

という指令である。

「――北条殿の御方針として、地方の紛争などは、何事によらず、事を大きくすな、とのおさしず。……されば、日野朝臣の追跡も、ひとまず打ち切り、当所にて捕えた散所民なども、みな解き放ッて、さっそく兵を戻せとの令でおざる」

伝令のこんな口上は、鬼六としては、意外だし、心外でもあったようだ。けれど、彼が河内へ出ているあいだに、従来の強硬な六波羅的な武断主義が、鎌倉の方針によって大きく修正され、同時に、探題以下の大更迭が、近々に行われよう、という噂なども、やがては彼も、後になって耳にしたことではあった。

とにかく。

その代りには、本庄鬼六も、収拾のつかない泥沼から、救われたような気はしたであろう。