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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
03 みなかみ帖
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 页
俊基は、得知れぬ物に腰をおろした。こうなっては、運を天にまかせているしかないと思う。
「……さても、われながら、数奇な生涯を見るものだ」
公卿に生れ、殿上に仕えてきた身が、なにを求めて、こんなあさましい窮地に自身を追いこめて来たのやら。
と思いはしても、この期となって、それを悔いたりする彼ではなかった。
沸らすものは、むしろそれとは反対な志操への信仰だった。志士的な熱情だった。
この味噌倉の闇へも、はや死の手は刻々に近づきつつあるかもしれない。
しかし、じぶんの亡魂はかならず、北条幕府の滅亡を見るだろう。と考えて、彼の胸の悲歌は、笑いをふくんだ。そして自身の死もまた、荘厳な国の犠牲とかがやき観えて来るのだった。
「弁ノ殿」
扉のすきから、外の豊麻呂が、小声で告げた。
「お気づかいなされますな。あの火の音は、捕手どもをくらますため、散所の者が、わざと二、三ヵ所に放ったもの。炎は、遠くでございますから」
いわれて、気づいた。
俊基が上を仰ぐと、棟木の隙や屋根の破れ目に、赤い火光が映じている。遠いといったが、バチバチ火のハゼ音まで耳につく。
そのうちに。
「すわ」