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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 页

青空文庫

「仰せられな」と、円心入道は猛気な人だが、尊氏の前ではつねに低目であった。「お味方であるからには、あたりまえなこと。あくまで大御所と喜憂も共にの所存でおざる。一に君の御人徳と申すもので」

「はて、まずい戦ばかりしつづけてきた尊氏に、なお、何の人徳などがあるだろうか」

「いやあの佐々木すらも、さように申しておりまいた」

「道誉が」

「失意のときこそ、総大将の人間のまことがわかる。この敗軍で、つくづく、足利の宰相の御器量が一そう大きく眺められた、と」

「はははは」

笑い消して。

「負けいくさに感心するやつもないものだ。道誉らしいわ」

そこへ直義が迎えに来た。

城中の広間に、はや一同が顔をそろえ、出座をお待ちしているというのである。この日、さいごの評議をすまし、そしてこよい、尊氏はここを出航、筑紫へさして行くというかねてからの計画だった。

もとより敗戦は予定していたものではない。しかし、いついかなる変で、都落ちを見まいものでないとして、尊氏は、とうから腹に副線を持っていたらしいかたちがある。

ゆらい、九州の武族は、強豪な聞えが高い。尊氏はまだ六波羅のころから、筑紫の少弐や大友の族党へはいちばい恩義をかけていた。