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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 页

青空文庫

まだきのうからの余風をおさめきらない多々羅ヶ浜一里余の磯は、いちめん、まッ白な潮けむりなのである。――両陣数千の兵も馬もまた刀槍の光も――まるで飛沫に翻弄される千鳥の大群か何ぞのように見えもした。

当然、矢は用をなさないので、長柄、なぎなた、太刀、槍の白兵戦となろうが、いつまでも、或る至近距離から内へは敵もすすまず、こっちも出てゆく風はなかった。――対峙のままただ喊声をからして、両軍、どっちも潮に濡れ光ッている。

この手の足利方は。

細川顕氏、上杉重能、畠山国清などで、それに少弐頼尚も、陣のさきに立っていた。

その頼尚は、かねがね、尊氏へむかって、

「――敵はどんなに大軍でありましょうとも、恐れることはありません。いずれ皆、お味方にまいらんと希っている者どもですから」

と、言っていた。

果たして、そうなのか、どうか。

前面に在る敵は、菊池方の阿蘇ノ大宮司惟直の軍勢だった。弟の惟成、いとこの惟澄、みな一陣らしい。そのほか数千の後詰がみえる。とうてい足利勢とは比較にならない陣容だ、鉄壁の陣だ。

そのとき、少弐の隊にいた饗庭ノ弾正左衛門が、頼尚の馬前へ来て、