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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 页

青空文庫

逆鱗すさまじい御けしきだた。朝敵、それ以上にも増す尊氏兄弟へのお憎しみが、どっとお胸の堰を切った。

朝廷が尊氏討伐を決定してこれを公卿僉議に宣したのは、十一月に入ってからのことにはちがいないが、その幾日頃であったろうか。

「公卿補任」をみるに、

在、陸奥ノ府

陸奥守北畠顕家

十一月十二日

鎮守府将軍ト為ル

とあるに徴しても、この日すでに東征の用意があったのはあきらかだ。

これはいうまでもなく東海東山両道から兵をすすめるのみでなく、北の奥羽からも官軍を攻めのぼらせて鎌倉を挟撃させようとの兵略にほかならなかった。しかし鎮守府将軍の官位はさきに尊氏へさずけられていたのだから、いまそれを褫奪して、顕家へ与えられたことにもなる。

ところが、「神皇正統記」にもみえる通り、ここに、

十一月十日あまりにや

謀叛のよし聞えける尊氏

かへつて

義貞追討の請ひを

闕下に奏し奉る

と、ある一ト波瀾が起き、これが問題の、尊氏が細川和氏を使者として、朝廷へさし出した“義貞弾劾状”であったのだろう。さらに「元弘日記裏書」によれば、

尊氏ノ奏状到来

十一月十八日

との明記もあり。――いずれにせよ、すでに官軍発向の準備や任命などに、朝廷の内外ともに沸くばかりな空気のところへ、この奏状がとどいたことはたしかであった。