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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 页

青空文庫

敬愛し合う男女の素朴な祈りと生命のみが知るものだった。――また河内の山間に古い或る一つの大屋根の下の、まだ明けきらぬ閨の内には、あったろうかとおもわれる。

まもなく……

金剛から水越峠の遠山が、くっきりと、晨の線を描いていた。

「ほう」

早起きではいつも一番の爺の左近が、遣戸をあけて、その赭ら顔を東の空へあげたとたんに、こう独りでつぶやいていた。

「霜だわえ! 五月にしてはめずらしい今朝の霜だ」

それからすぐ、彼は侍部屋から下屋へまで、何かどなり廻っていた。

いやいつもならば、厩から雑人長屋も、それからの物音なのだが、今朝はあながちそうでもない。あらためて、

「御出陣だぞ。今日だぞ」

と、いちいち爺からいわれなくても、中間から下部女のはしにまで心構えはできている。

卯木や久子も奥向きだけでなく、釜屋から厨房へまで出て、はたらいていた。――館じゅうの清掃も今朝は日ごろとちがう丁寧さであった。それは幼い三郎丸や観世丸にも映って、しきりに子供らをはしゃぎ廻らせる。――正成はそれを見て笑いながら、いま、湯殿から身浄めをすまして一室へ入って行った。

すでに陽がさしのぼる。