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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 页

青空文庫

それも癒えぬうち征途についていたのである。戦陣のむり、雨期の悪天候など、いらい、彼の体のすぐれぬものがあったといえぬふしもなくはない。

「やんだなあ、雨は」

義貞は、つぶやいた。自分では健康をそこねているなどと意識しているふうではなく――ただ夜来の風雨には辟易したらしく、生田ノ森に兵馬をさけ、自身も社殿のうちに一夜をしのいだ。そして二十四日の今朝、

「やんだわ!」

と、五月の空の、雲のきれまを仰ぎながら、門廊のあたりまで歩いて来て、

「瓜生、瓜生っ」

と、人を呼んでいた。

声は大きい。いくぶん、癇気はあるが、不健康ではとても出ない声である。顔いろに冴えがなく、どこか澱みがあるのはぜひもない。――加古川を総退却していらい、よく眠ったのは、ゆうべが久しぶりなのだった。

「おお、おめざめで」

「保か。――内門の廊の袖に床几をおけ。そしてすぐ軍議をひらこう。昨夜らいの物見の情報も聞きたい。――義助をはじめ、堀口、大館、江口、世良田、居あわす者はみな寄れと申せ」

「はっ」

瓜生保が駈け去る。

まもなく、脇屋義助の手にぞくす将のほかは、あらまし集まってきた。

ただ、義助はなお、足利勢のうごきをたしかめるため、ゆうべの風雨の中も、須磨口から兵庫の浜にとどまっていた。