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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 页

青空文庫

その密使には」

「東寺の長者、文観上人の侍者です。それが浄土寺と東寺のあいだを、ひそかに往来いたしたもようなので」

「待て待て。坊主と坊主の行き来など、あるいは、祈祷事かもしれんではないか」

「いや――」と、師泰は確信をもってなおささやいた。大御所尊氏がここ密々に和議をすすめているということをである。直義は顔色を変えだした。

「おられますか」

直義は、あらい息のまま、軍幕を払って、さし覗いた。

千手院の営中である。

ただひとり、馬を東寺の門で捨てるやいな、あッけにとられる兵どもをしり目に、大股でこれへ来たものだった。

が、尊氏は見えない。

床几はあるが、兄の姿は見えないので、中門を入り、廊のそとから大声でおくへどなった。

「直義でおざる。直義、ただいま近江の戦場より帰陣いたしました」

「おう」

と、一房の障子の蔭で尊氏の声がした。

「帰ったのか、直義。あがれ、あがれ」

「土足です、血みどろです」

「かまわん」

「では、ごめんを」

ずかと上がって、机の前に、あぐらした。その机からして、むかッとせずにいられなかった。

「なにを、お認め中でしたか」

「日課をな」

「毎日?」

「ム。