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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 页

青空文庫

「ゆめ、泣き言など申しはしません!」と、上杉伊豆守(重房)は大声で言い返した。これは憲房の長子である。したがって、尊氏とも他人ではない。

「……まずはお聞きくださいまし。直義さまはいわずもがな、足利方の諸士、みな名に恥じぬ戦はしたとおもいます。けれど、敵は官軍の名に誇り、いまや三万におよぶ大兵を擁すにいたり、お味方はといえば、からくも箱根山中の一塁二塁にしがみついて、孤軍、必死のふせぎにあたっておりまする」

「わかった。いま、直義の書状に見るも、その辛さのほどはようわかる。……だが、それゆえ、わしに起てとすすめに来ても、それは無理だろ」

「なぜ、ご無理ですか」

「尊氏は公約しておる。本心、朝敵たるは好まぬところと」

「でも、過ぐる日、朝廷では、尊氏ノ官位ヲ褫奪ス、と世に公布しておりまする」

「仔細ない、仔細ない」

「のみならず、軍状その他、すべて官軍の合言葉は、逆臣尊氏でしかありませぬ」

「それもよし」

「いや殿はそうでも、朝廷方では、殿の恭順など一切みとめてなどおりません。――ひとたび、官軍がここへ迫らば、たとえ染衣剃髪のお身とおなりであろうとも、何で、仮借などするものですか」