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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
吉川英治『私本太平記(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記、私本太平記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 页
ぜひなく、愛鷹山の根に沿った西への道を、幾段にもなって、落ちて行った。敵に追われ、雪風に捲かれながら、逃げなだれてゆく人馬の影が日没まで絶えなかった。
「中書の宮はどうなされたか。宮以下の公卿軍は」
こう訊きながら義貞はひと息ついた。鈴川の近くであった。
旗本十六騎のうち、そばにいたのは葦堀七郎、篠塚伊賀守、川波新左などの四、五名にすぎず、兵もせいぜい二、三百しかみえなかった。
「いや、もう先です」と、旗本の中の一人がいう。
「――宮の軍は、はや富士川まで落ちて行ったと聞きまする。しかし二条の中将為冬卿はお討死とか」
「二条殿は死んだか」
「ほか二、三の公卿大将も討たれ、その手にあった諸家の兵など、どうなったのか、ほとんど確かにはわかりません」
「義助(脇屋)はまだ後だな」
「ご舎弟様の一軍は、黄瀬川の上を取って、烈しく敵をくいとめ、船田ノ入道なども、必死な殿軍をつとめておりますが……」
まもなく烏山修理亮、大井田式部があとを慕って追ッついて来る。また一ノ井兵部、厚東駿河守、堀口美濃守貞満も、満身、朱の姿で、
「おお殿」
と、残念そうに、みな義貞の駒のまわりに寄って来た。