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あきのかご

秋の駕籠

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,356 字 · 35 页

青空文庫

お梅は見向きもしなかった。

「ねぎまに鯖の塩焼で御飯ですね、はい」

などと他の客に掛りきりであった。

「なんにしますか」

およのが注文を聞きに来た。笑いたいのをがまんしている顔つきであった、注文を聞いて去るときにはいそいで前掛で口を押えた。二人はむっとして、さらに肩をいからかした。

二人は黙って飲んだ。もう酒は不味いし、飲みたくもなかったが、飲むよりほかにしようがないのであった。客は絶えず出入りしていた。そのうちに一人、四十五六になる商人風の男が入って来た。その男はこっちの小座敷へ来ようとしたが、お梅になにか云われ、しぶしぶ飯台のほうへ腰掛けた。

「あいつはいってえなんだ」中次が云った、「この頃ちょくちょく此処へ来るが、きざなことばかり云う妙な野郎だぜ」

「いそってえ名前だそうだ」六助が云った、「ゆうべは四十くらいにみえたが、今夜は五つ六つ老けてみえる、自分では大店の旦那らしいことを云っていたっけ」

中次はふんと云った。六助は眼をすぼめ、盃を口まで持っていったが、眉をしかめて下へ置いた。まもなくお梅が酒を運んで来た。お梅は二人に気づかれないように、そっと来て、燗徳利と小皿の載った盆をそこへ置き、いたずらっぽい眼で二人を眺めながら、にこりと笑って云った。