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あきのかご
秋の駕籠
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,356 字 · 35 页
その日は神奈川泊りにした。第一日だから、ということだったが、宿へ着くとすぐ、客は二人に金を預けた。
「お世辞じゃないがおまえさんたちを覘う泥棒もいまいからね」いそという客は云った、「草津へいったときには自分が持っていてさ、二百両ばかりだったがそっくりやられましたよ、ええ、だからこんどは箱根まで頼みたいと思いましてね」
そして胴巻を預けられた。預かるについて、念のために数えてみたところ、大判で四百両、小判で五十両あった。もちろん封まで切りはしないが、六助と中次はわれ知らず眼を見合せた。その多額な金は、二人から不吉な予感を除いてくれたばかりでなく、浮かない気分からも解放してくれた。草津のときは二百両も盗まれたという、またこれだけの金をむぞうさに預ける。こんなことが大店の旦那でなくて誰にできるだろうか、悪人やいかがわしい人間に、そんなおうようなことができるだろうか。
「人はみかけによらねえものだ」六助があとで云った、「みかけだけで人を判断するのはよくないもんだ」
中次は頷いて、満足そうに太息をついた。
旅は快いものになった。客は(魚金にいるときとは別人のように)無口で、むだなことを殆んど云わなかった。