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たいない

胎内

三好 十郎

「中央公論」1949(昭和24)年4、5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,766 字 · 136 页

青空文庫

なんのためだ? 何万匹という精虫の中のたった一匹に出会うためだ。すると、残りの何万何千匹の精虫は、なんのためだ? わかるもんか。わかっているのは、競争に勝つ奴と負ける奴とがあるというだけだ。負けたくなけりゃ、戦うだけさ。イクサがあるっきりだ。そうだろう? 神さまがないとなりゃ、イクサがあるっきりだよ。人間がそんなふうにできているんだもの、はあ! ヘッヘヘ、だから俺あ、人を踏み殺して歩くよ、ああ。ジャマになる奴あ踏み殺して行くんだ。どうだ、えらそうに――高慢な顔しやがって――え? なんとかいえよ!

佐山 ……(弱々しく笑う)

花岡 (ほとんど狂暴に)踏み殺すぞキサマ! おい、木戸! やい!

村子 (ユックリと起きなおって)これは佐山さんという人じゃないの。バカねえ!

佐山 ……すみませんが、タバコをもう一本もらいたいんですけどねえ……

花岡 タバ――? (ビックリして、相手を見る)

村子 ……(シガレット・ケースからタバコを一本ぬきとって、膝あるきでコートの端まで行き、半身をのりだして佐山に渡しながら)はい。この人は、ヤキモチで目がくらんでしまってるのよ。

佐山 やあ……(渡されたタバコを、ほとんど無意識に受けとりながら、うつろな目で村子のからだをマジマジと見ている)……あのう、花――?