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たいない

胎内

三好 十郎

「中央公論」1949(昭和24)年4、5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,766 字 · 136 页

青空文庫

佐山 ……そうらしいな。お母さんとか――

村子 え?

佐山 そいから、つりがね草が、咲いてる――

村子 つりがね草――

佐山 夢を見ていたんでしょう?

村子 いいえ、そうじゃないの、これがそうだと思ったの。……(動いている花岡の両脚にしばらく目をとめていてから)……こうしている、これが夢じゃないかしら? (だるそうに起きあがる)

佐山 うん。……

村子 いつか、こんな夢を見たことがあるの、なんどもなんども。暗い中でもがいているのよ……夢の中で、これは夢じゃないかしらと思いながら。そいでまた夢を見ているの。……(花岡の脚の動きを見ている目と目の間が痛くなって来て、ひたいをしわめながら)……夢だ。

佐山 ……夢じゃ、ないんだ。

村子 すると……(花岡の脚から、まだ目を引き離せないで)どう? え?

佐山 ですから、そうなんですよ。……しかたがないんだ。

村子 ハッキリ知りたいの。

佐山 六十で死ぬとする。だいたい、すると、あと三十年ある。

村子 いえ、たいがいは、私にもわかるわ。覚悟はついている。……ついているような気がするの。しかし、ハッキリ知りたいのよ。ハッキリして、そして、なにか、それまでに考えて置かなければならんことがあるような気がするの。