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はなのきむらとぬすびとたち

花のき村と盗人たち

新美 南吉

「花のき村と盗人たち」帝国教育会出版部、1943(昭和18)年9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,710 字 · 20 页

青空文庫

たいてい牛の仔というものは、そこらをぴょんぴょんはねまわって、持っているのがやっかいなものですが、この牛の仔はまたたいそうおとなしく、ぬれたうるんだ大きな眼をしばたたきながら、かしらのそばに無心に立っているのでした。

「くッくッくッ。」

とかしらは、笑いが腹の中からこみあげてくるのが、とまりませんでした。

「これで弟子たちに自慢ができるて。きさまたちが馬鹿づらさげて、村の中をあるいているあいだに、わしはもう牛の仔をいっぴき盗んだ、といって。」

そしてまた、くッくッくッと笑いました。あんまり笑ったので、こんどは涙が出て来ました。

「ああ、おかしい。あんまり笑ったんで涙が出て来やがった。」

ところが、その涙が、流れて流れてとまらないのでありました。

「いや、はや、これはどうしたことだい、わしが涙を流すなんて、これじゃ、まるで泣いてるのと同じじゃないか。」

そうです。ほんとうに、盗人のかしらは泣いていたのであります。――かしらは嬉しかったのです。じぶんは今まで、人から冷たい眼でばかり見られて来ました。じぶんが通ると、人々はそら変なやつが来たといわんばかりに、窓をしめたり、すだれをおろしたりしました。