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わかきひのせっつのかみ
若き日の摂津守
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1958(昭和33)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,437 字 · 47 页
天地はもうすっかり明けていた。霞んで見えない対岸のかなたに、日の出の逆光で描きだされた山なみが近ぢかと見え、湖上では猟人の漕ぎまわる小舟が、獲物を乗せて次つぎと仮屋の岸へ着き、また沖へと出てゆくのが眺められた。――光辰はそれが不審らしく、猟はどういう方法でするのかと訊いた。すると次席家老の望月吉太夫が、「枝流し」という猟法を説明した。それは枯枝に黐を塗りつけて流すと、水面におりた鴨がその枝をつかむとか、翼をとられるとかして飛べなくなる。それを小舟で集めるという仕掛であった。
「おもしろいな」と光辰は面白くなさそうな声で云った、「では、鷹も弓も使わないのか」
使わないと吉太夫が答えた。
「ふーん」と暫くして光辰が云った、「――武家の狩のようではないな」
すると重太夫が「殿」といって睨んだ。
「いや、武家のようだ」光辰は袖で口のまわりを拭きながら云い直した、「武家の狩のようだ、おもしろいな」
だがもうその猟には興味をなくしたらしく、光辰は眼をあげてあちらこちらを見まわした。湖上にはまだ靄がたなびいているが、朝日は対岸の山なみの上にのぼり、湖北につらなる山岳地帯を、片かげりにくっきりと照らしだしていた。