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わかきひのせっつのかみ
若き日の摂津守
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1958(昭和33)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,437 字 · 47 页
「――二十年待ったとて同い年ゃ同い年」
裏のほうでまだ唄の声がしていた。
「お侍さまはお城の方ですか」と老婆が眼脂だらけの眼で光辰を見た、「わたしはかすみ眼でよくお姿が見えないんですが」
「そうではない」光辰は口のまわりを拭きながら云った、「裏でうたっているのはこの土地の唄か」
「あれは市兵衛さんといって、気が狂ってるんですよ」と老婆がちぐはぐな返辞をした、「お城の方でないとすると旅のお方ですか」
「まあそうだ」と光辰が云った、「あの老人がきちがいだって」
「川辺が鴨猟のお止め場になって、この伊部村へ追われてから気が狂ったんです」と老婆は云った、「自分の田や畑がなくなっちまったもんですからね、ああやってなんにもならない赭土を、掘っては埋め掘っては埋めしているんです、畑でもうなっているつもりなんでしょう、もう三年以上もおんなじことをやってるんですよ」
「どうして、自分の田や畑が、なくなったんだ」
「いま云ったとおり、川辺が鴨猟のお止め場になったからです」
「お止め場とはどういうことだ」
老婆は布切で眼脂を拭きながら語った。
いま鴨の猟場になっている処は川辺村といって、三つの部落に五十余戸の農家があった。