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わかきひのせっつのかみ

若き日の摂津守

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1958(昭和33)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,437 字 · 47 页

青空文庫

しかしその日は例年「初鮎」の日ときまっているそうで、すっかり支度ができているから延ばすわけにはいかない、と重太夫が云った。もちろんさからうことはできない。光辰はくたびれたような気分ででかけた。――漁場は幡野村というところで、賀名川と安井川の合流点から少し下に当っており、鴨猟のときと同じように、半ば河原へかけて新しい仮屋が建ててあった。

漁法は簗と投網で、簗は合流点に掛けてあり、投網は仮屋の前で、十人の漁人が技をきそった。

「あんなふうにいかないものかな」

投網技を眺めながら、光辰はふとそう呟き、袖で口のまわりを拭いた。

「は」と云って、永井民部がうしろから身をのばした。

「なんでもない」と光辰は云った、「あ――れは焼かずに持っているぞ」

民部は黙って、のばした躯をまっすぐにした。

あのときの書類は罠ではなかった。あれから日数が経っているのに、なにごとも起こらない。重太夫はじめ重臣たちにも、変ったようすはみられなかった。光辰はそのことを思いだして、民部に自分の意志を伝えたのであった。うしろにいる民部が、そのときどんな顔をしたか光辰にはわからなかった。だが、なにも云わずに坐り直したけはいで、彼がその意味を了解したことだけは見当がついた。