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わかきひのせっつのかみ
若き日の摂津守
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1958(昭和33)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,437 字 · 47 页
――言葉は殆んど聞きとれないが、光辰を見るときの二人の眼には、憐れみと軽侮の色があらわれており、特に重太夫の顔にはそれが露骨であった。いちど彼が唇を歪めて、図書にこう囁くのが聞えた。
「構わずにおけば居眠りを始めます」
一刻ばかりでその賜盃が終ると、光辰は泉亭へ移った。
泉亭では、城代家老はじめ六人の重臣と酒宴があり、家中から選ばれた娘たち十人が給仕を勤めた。これにはわけがある、――光辰と正室のあいだにはまだ子がなかった。年が違いすぎるのか躰質が合わないのか、結婚してからもう五年になるので、重臣たちは医師と相談し、国許の健康な娘を側室にあげる、ということにきまった。そのとき医師は「御自身で気にいった者のほうがよい」と主張したそうであって、――泉亭の給仕に出たのは、つまり側室の候補者たちであり、そのことはむろん、浅利重太夫から光辰に告げてあったのだが、酒宴がすすんでも、光辰はてんで娘たちを見ようともしなかった。
「殿、――」と重太夫がたまりかねたように囁いた、「お気にめした者がございますか」
光辰は重太夫を見、袖で口のまわりを拭き、それから、重太夫の問いがなにを意味するのか思いだそうとして、上眼づかいに天床を見あげた。