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おちばのとなり
落葉の隣り
山本 周五郎
「小説新潮」1959(昭和34)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,877 字 · 57 页
「かあちゃんが死んだの」とおひさは前掛で顔を掩い、泣きだしながら云った、「かあちゃんが死んじゃったのよ」
繁次は口をあいたが、すぐには言葉が出なかった。彼はおひさの肩へ手をやり、するとおひさは躯ごと凭れかかった。前掛で顔を掩ったまま、彼の胸へ凭れかかって、うっ、うっと咽びあげた。
「どうしたんだ、いつ死んだんだ」
「昨日が初七日だったの」
「知らなかったな、病気だったのか」
「十日ばかり寝ただけ」とおひさが答えた、「寝て二三日すると頭がおかしくなって、死ぬときにはわけがわからなくなっていたの」
「ちっとも知らなかった、たいへんなことになっちゃったな、それは」
おれはまぬけなことを云うぜ、繁次は自分に舌打ちをした。凭れているおひさの躯が、触れているところだけ熱いように感じながら、悲しいような気分さえ起こらない自分が、恥ずかしくなるばかりだった。
「あたしどうしよう、繁ちゃん」おひさは咽びあげながら云った、「あたしどうしたらいいかしら」
「どうするって、なにを――」
おひさは急に躯を固くした。繁次はその躯を押しはなして、顔を覗きこみながら、どうかしたのか、なにか心配なことでもあるのか、と訊いた。