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おちばのとなり

落葉の隣り

山本 周五郎

「小説新潮」1959(昭和34)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,877 字 · 57 页

青空文庫

おひさは暫くじっとしていたが、やがて小さくかぶりを振ると、涙で濡れた顔をよく拭いて、前掛をおろした。

「なんでもないの」とおひさは微笑した、「かあちゃんに死なれて心ぼそくなっただけよ、ごめんなさい」

「そうだろうけれど、まあ坊がいるからな」と繁次はぎごちなく云った、「おじさんはあんなだから、おめえがしっかりしなくっちゃまあ坊が可哀そうだぜ」

「おかしいのね」おひさはぼんやりと、独り言のように云った、「あの子ったらかあちゃんが死んでも泣かないのよ」

そしておひさは喉で、しゃっくりのような泣きじゃくりの音をさせた。

その夕方、仕事を終ってから、繁次は親方にわけを話して、おひさの家へ悔みにいった。さきにうちを覗くと、母がおひさと増吉に夕飯を喰べさせているところだった。繁次は声をかけておいて、おひさの家へいった。姉弟の父は角造といい、今戸の瓦屋の職人だったが、酒癖が悪く、飲みだすと三日も五日も休みなしに飲み、もちろん仕事には出ないし、酒乱のようになった。そうかと思うとぴたっとやめて、二十日も一と月も一滴も飲まないことがある。そんなときは躯まで小さくなったかと思うほどおとなしく、ろくろく話もできないというふうになるが、飲み始めるとまた同じような結果になるのであった。