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あしはみていた
葦は見ていた
山本 周五郎
「週刊朝日」1947(昭和22)年6月22日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,985 字 · 36 页
――計之介の居間へ、戻った挨拶に来たとき、松野は泣いた。
「杉丸さまからうかがいました」と松野伊太夫は云った、「あのときは無礼なことを申上げましたが、どうぞお赦し下さいますよう」
計之介は頭を垂れた。そして低い声で云った。
「勘弁しておくれ、私はやり直すからね」
松野は「はい」といった。
「私は立ち直ってみせる」と計之介は云った、「きっと立ち直ってみせるよ、きっとだ」
計之介の眼からも涙がこぼれ落ちた。
臨時に雇った二人の下僕をさしずして、松野が家の中をきれいに片づけた。家財道具も殆んどなく、家じゅうが荒れ放題になっていた。それをきれいにし、さしあたり入用な物を買いいれた。金は杉丸が都合してくれたらしい、あとで「残ったから」といって、二両ほどの金を計之介に渡した。
中一日おいて東次郎が訪ねて来た。
そのときはもう、松野の老妻も戻っていたので、つつましく酒肴の膳を拵え、昼食を共にしながら話した。
計之介はすっかり話した。話す必要もなくまた話せないことはべつにして、できるだけありのままに告白した。
藤吉の家は五百三十石の中老で、父の舎人は側御用を勤めたこともあり、酒も煙草も口にしたことのない、謹直な人であった。