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あしはみていた

葦は見ていた

山本 周五郎

「週刊朝日」1947(昭和22)年6月22日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,985 字 · 36 页

青空文庫

彼はまえにめぼしい物をすっかり売ったので、残ったのはたいてい恥ずかしいような品ばかりであった。しかしどんなに些少でも、それが銭になる物なら片端から売った。

――もう少しよ。もう少し。

女は苦悶の声をあげながら叫んだ。

――あたしもうすぐに出てゆくわ、だからもう少しのあいだ堪忍して。

だが、おひさは出てはゆかずに、自分が稼ぐと云いだした。いっしょに江戸へゆこう、江戸なら充分に稼げるし、あなたも肩身のせまいおもいをせずに暮すことができる。いっしょに江戸へゆきましょう、そう云ってくどきはじめた。

――さもなければ、あたしたち餓死をしてしまうわ。

――おまえは餓死がいやか。

――あなたを餓死させられると思って。

――ゆきたければおまえ一人でゆけ、おまえ江戸へ帰りたいんだろう。

――あなたには女の気持がわからないのね。

――一人でゆけ、おれはいやだ。

家の中はからになった。もう屑屋でもなければ買わないような物ばかりで、それを売るのもおひさの役になった。すると或る日、おひさが一面の古鏡を捜しだして来た。

――それは売れないんだ。

と計之介は云った。

――それは古くから藤吉に伝わっている家宝で、代々この家の主婦の持つものになっている、祖母から母へ、母から、……そうだ、それはおまえに渡されるものなんだ。