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ばらとみこ
薔薇と巫女
小川 未明
「早稲田文學」1911(明治44)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,174 字 · 15 页
もはや、眼を見開いて、人々の顔を探ねる程の気力もなかった。既に意識は遠くなって、霊魂はこの現実の世界から、彼の夢の世界へ歩いていた。
人々は、心配そうな顔付をして互に黙って独りこの世を離れて行く、娘の臨終の有様を見守るばかりであった。
巫女は、脊に小さな箱を負って村を通った。娘の叔母がこれを見付けて家に連て来た。その時は、もはや娘は眼を閉じて最後の脈が打ち収めた時であった。一室の裡には、母親が泣き、妹が泣き、親類の人々も泣いて、娘の枕許には香が焚かれて、香りが冷かな夕暮方の空気に染み渡って、青い蝋燭の焔が風もないのに揺れるように思われた。
窓からは、木々の青々とした梢を透して夕焼の色が橙色に褪めかかっている。
巫女は、死んだ娘を呼び戻すと言った。而して枕許に坐って咒文を唱えた。人の魂いまでも引付けるような巫女の顔は、物凄くなって、見ている人々は顔を反けたという。刹那、地震が地球を襲って家を揺った。人々は驚きの瞳を見張ると死んだ娘は、深い溜息を吐き返した。而して閉じた眼を大きく見開いて、床の上に起き直って眤と母親の顔を見て物を言おうとした。母親は、喜んで娘に抱き付いた。