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むし

虫

江戸川 乱歩

一~四「改造 第十一卷第六號 六月號」改造社、1929(昭和4)年6月1日<br>五~十二「改造 第十一卷第七號 七月號」改造社、1929(昭和4)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,053 字 · 86 页

青空文庫

ある理由から、彼はそれを買入れる時、客席の窓に新しくシェードを取りつけさせることを忘れなかった。前にも云った様に、彼のK町の家には、広い荒庭があったので、車庫を建てるのも、少しも面倒がなかった。

車庫が出来上ると、柾木はそこの扉をしめ切って、婆やに気附かれぬ様に注意しながら、二晩もかかって、大工の真似事をした。それは、彼の自動車の後部のクッションを取りはずして、その内部の空ろな部分に、板を張ったり、クッションそのものを改造したりして、そこに人一人横になれる程の、箱を作ることであった。つまり、外部からは少しも分らぬけれど、そのクッションの下に、長方形の棺桶の様な、空虚な部分が出来上った訳である。

さて、この奇妙な仕事がすむと、彼は古着屋町で、賃車の運転手が着そうな、黒の詰襟服と、スコッチの古オーバと(その時分気候は已に晩秋になっていたので)目まで隠れる大きな鳥打帽とを買って来て、(か様な服装を選んだのにも、無論理由があった)それを身につけて運転手台におさまり、時を選ばず、市中や近郊をドライヴし始めたのである。

それは誠に奇妙な光景であった。雑草の生い茂った荒庭。