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むし
虫
江戸川 乱歩
一~四「改造 第十一卷第六號 六月號」改造社、1929(昭和4)年6月1日<br>五~十二「改造 第十一卷第七號 七月號」改造社、1929(昭和4)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,053 字 · 86 页
彼は邸の荒庭の真中に、水のかれた深い古井戸のあることを知っていた。ある日彼は、庭をぶらついていて、態とそこへ足を辷らせ、向脛に一寸した傷を拵えて見せた。そして、その事を婆やに告げて、危いから埋めることにしようと云い出したのである。丁度その頃、近くに道路工事があって、不用の土を運ぶ馬力が、毎日彼の邸の前を通り、工事の現場には、「土御入用の方は申出て下さい」と立札がしてあった。柾木はその工事監督に頼んで、代金を払って、二車ばかりの土を、彼の邸内へ運んで貰うことにしたのである。馬方は、彼の荒庭の中へ馬車を引き込んで、その片隅へ、乱暴に土の山を作って行った。あとは、いつでも好きな時に、人足を頼んで、その土を古井戸の中へほうり込んで貰えばよいのである。云うまでもなく、彼は井戸を埋める前に芙蓉の死骸をその底へ投込み、上から少々土をかけて、人足だちに気附かれることなく、彼女を葬ってやる積りであった。
さて、準備は遺漏なくととのった。もう決行の日を極めるばかりである。それについても、彼は確かな目算があった。というのは、屡々述べた様に、彼は其の時分までも、例の尾行や立聞きを続けていたので、彼等(池内と芙蓉と)が次に出会う場所も時間も、知れていたし、当時芝居の切れ目だったので、芙蓉は自宅から約束の場所へ出かけるのだが、そんな