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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

蠅男の手に懸って、細首を絞められてしまったかと思ったが、そのとき遅く、かのとき早く、

「――蠅男、そこ動くなッ」

と、突然大音声があがったと思う途端、寝台の陰からとび出して来た一個の人物! それは誰であったろうか? 警察の豚箱に監禁せられて熟柿のような息をふいているとばかり思っていた青年探偵、帆村荘六の勇気凜々たる姿だった。蠅男は無言で後をふりむいた。

「うふ。――いいところへ来たな。俺の正体を見たからには、最早一刻も貴様を活かしては置けねえ。覚悟しろッ」

「なにをッ。――」

鬼神「蠅男」と探偵帆村とは、何も知らずに睡っている糸子を間に挟んで、物凄く睨み合った。

風か雨か、はた大噴火か。乾坤一擲の死闘を瞬前にして、身構えた両虎の低い呻り声が、次第次第に高く盛りあがってくる。――

死闘

獣か人か。

怪物蠅男の身体は首の付いた痩せ胴とバラバラの手足から組立てられて居たとは、実に前代未聞の一大驚異である。

この蠅男の身体に関する秘密は、まだ十分了解することが出来なかったが、決死の青年探偵帆村荘六は脳底から沸き起ろうとする戦慄を抑えつけて、厳然とこの大怪物と睨み合っている。