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おやどりことり

親鳥子鳥

佐々木 邦

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年10月~1926(大正15)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,828 字 · 181 页

青空文庫

「気味が悪いね。ああ、地震がなくてくれれば宜い」

「チョクチョク耳に入るから、聞けば聞きっ腹でね、ヤキモキしていまさあ」

「お手軟かに頼むよ。今なら金の無心をされても承知する」

「実際、考えて見ると床屋ぐらい信用のある商売はありませんな。俺は斯うやって旦那の喉笛へ剃刀へ当てがっています」

「よせよよせよ」

「殺そうと生そうと料簡次第だ」

「御道理です」

「毎日毎日やっていて能く殺す気にならないと思うと感心しますよ」

「なられて溜まるものか」

この客が済むと同時にもう一人明いて僕達の番になった。僕達一分刈りは余程廻り合せが好くないと親方の手にかかれない。大切の頭を小僧が稽古台に使う。早かろう痛かろうだ。髪丈けは十分ぐらいで片付く。顔にかかった頃、

「近所に一軒出来たんで、多少影響するだろうね?」

と先刻の爺さんが親方に話しかけた。

「矢っ張りチビチビ食われますな」

「競争なら間違ない法が一つある」

「これは有難い。是非御伝授願います」

「別嬪を置くんだね、別嬪を」

「成程、これは当らず障らずで宜い」

と親方は喜んだ。少くとも乞食を差し向けるよりは実行性に富んでいる。

「俺の若い頃の話だが、近所で矢張り床屋の競争が始まって、専ら値下げをやった。