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とうくろうちそう
討九郎馳走
山本 周五郎
「内蔵允留守」成武堂、1942(昭和17)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,250 字 · 21 页
討九郎はようやく老職たちの気持がわかった。大納言義直と水野忠善とは、ずいぶん以前から反目のあいだがらにあった。たとえばあるとき江戸城中において、義直が忠善にむかい、
――岡崎は名古屋の押えなりと聞くがまことであるか。
こう訊ねた。忠善はその言下に仰せのとおりと答えた。遠慮の無さすぎる返事である。義直はしいて笑いながら、
――では余が軍勢を催して攻め寄せたらみごと防戦してみせるか。
――仰せまでもなきこと、尾州家に於て西三十三カ国の軍勢をかり催し給うとも、岡崎一城にて二十日はくいとめてみせまする。
そう云って忠善は昂然と額をあげていた。それからまたある年、忠善はみずから家臣二人をともなって名古屋に潜入し、尾張家の武備を探索し、その城濠の深浅まで密偵したことがある。そのとき義直に偶然それを発見され、危うく捕縛されかかったが身をもってのがれた。義直はこのときのことを憎み、あのおり忠善を討ちもらしたのはなにより残念なことだ。とのちのちまで口惜しがっていた。
そういうわけで、尾張家とはむずかしい関係にあったから、主君の留守城でもしまちがいでもあってはと老臣たちが考えたのは無理のないはなしなのである。