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ろんごものがたり
論語物語
下村 湖人
「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页
」
「どう致しまして。先生のお眼は、それこそいつも湖水のように澄んで居ります。」
「たしかにそうかな。」
「決してお世辞は申しません。」
「それがお世辞でなければ、お前の見る眼が悪いということになるのじゃが……」
楽長は、自分の見る眼が悪いとはどうしても思えなかった。で、
「そう仰しゃられますと、いかにも私に邪心があるようでございますが……」
と、残念そうな口吻で云った。
「楽長!」
と、孔子は急に居ずまいを正して、射るように楽長の顔を見つめながら、
「もっと思い切って、自分の心を掘り下げて見なさい。」
楽長は思わず立上って、棒のように固くなった。孔子はつづけた。
「君は、奏楽の時になると、いつもわしの顔色を窺わずには居れないのではないかな。」
楽長は、なるほど、そう云われれば、そうだ、と思った。しかし、それが自分に邪心のある証拠だとは、まだどうしても思えなかった。
孔子は、少し調子を柔らげて云った。
「もしそうだとすれば、それが君の邪心というものじゃ。君の心の中では、この孔丘という人間が、いつも対立的なものになっている。君は、はっきり意識していないかも知れないが、君の奏楽にとって、わしの存在は一つの大きな障碍なのじゃ。