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ろんごものがたり
論語物語
下村 湖人
「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页
冉有は、その固い空気の中を、もがくようにして、何か云おうとした。すると老人は急ににっこり笑って手を振った。
「いや、これはつい大声を立ててすみませなんだ。それはもう、貴方がたが、先生のお身の上を心から気にかけていなさることは、この老爺の眼にもよくわかりますわい。だが、天下にこう道がすたれては、先生にでも難儀をしていただくより手がござりますまい。いわば、それが先生に下された天命じゃでな。それはそうと、この衞の国では、何かというとお上からお布告が出て、そのたんびに、木鐸という変な鈴をがらがら鳴らしてあるきますが、まさか魯の国ではそんな馬鹿馬鹿しい真似はなさるまいな。あんなものはただやかましいだけで、何の役にも立つことじゃありません。何分お上がお上でございますからな。私はこれまであの音をきくたびに、いつも思いましたよ。もし天のお声を伝えてくれる木鐸というものがあったら、とな。」
彼はそこで探るように門人たちの顔を見まわしていたが、ふたたび厳粛な顔になって云った。
「おわかりですかい。貴方がたの先生こそ、これからその天の木鐸にお成りだということを。」
また沈默がつづいた。