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ろんごものがたり

論語物語

下村 湖人

「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页

青空文庫

「実は先生の御意見もそのとおりだ。心配はしていられるが、こちらで細工をするより、本人に任した方がかえって安全だ、と仰しゃるんだ。」

みんなは、孔子が顔渕を信ずることの非常に篤いのを知っていた。彼等のある者は、孔子が嘗て、

「1顔渕は終日話していても、ただ私の言うことを聴いているだけで、一見愚かなように見えるが、そうではない。彼は默々たる自己建設者だ。どんな境地に処しても常に自分の道を発見して誤らない人間だ。彼は決して愚かではない。」

といったことを思い起した。で、誰も孔子の意に反してまで、顔渕のために手段を講じようとは云い出さなかった。

「すると、今夜は結局何もしないで、このまま寝るより仕方がないのか。」

「何だか落ちつかないね。」

「僕は寝たって眠れそうにないよ。」

みんなはそうした不安な気持を語りあいながら、それからもしばらく起きていた。しかし、いつまで起きていても仕方がないので、門外の様子に気を配りながら、やっとめいめいの床についた。

眠れない一夜が明けた。兵士たちの足音は夜どおしきこえた。そして顔渕はついに姿を見せなかった。

ところで、包囲は翌日も、翌々日も解けなかった。