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ろんごものがたり
論語物語
下村 湖人
「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页
「お前たちが、それほど立派な人物だと思うなら、会って見よう。だが、わしと政治上の意見を戦わして、もしわしが勝ったら、今後は一人たりとも、孔子の門に出入りしてはならないぞ。」
彼は、何の自信もなかったが、そんな強がりを云って、孔子との会見を承知してしまった。日取は明日ということになった。
その晩の彼の苦心は実に惨憺たるものであった。彼の今日までの政治的体験から、自ら省みて恥じないような事蹟を探し出すことは非常に困難であった。ただ彼には、一つだけ自信のもてることがあった。それは、厳罰主義で臨んでいる結果、法律が領内によく行われているということであった。けれども、厳罰主義を人民がいやがっていることは、彼もよくよく承知しているので、大びらにそれをいうわけには行かなかった。出来れば、厳罰主義のことを云わないで、人民に遵法の精神がみなぎっているような風に話す工夫はあるまいか、と考えた。
ふと彼は、数ヵ月前、役人から受けた報告の中に、非常に感ずべき事件のあったことを思い出した。
(そうだ、あれは全く珍らしい事件だった。あれなら誰が聞いても、人民に遵法の精神が横溢している結果だと思えるだろう。