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ろんごものがたり
論語物語
下村 湖人
「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页
今時、何処をうろついたって、満足な渡船なんか、見つかりやしないよ。わかるかね、仲由さん。どうせ今の世の中が泥水の洪水見たいなものだとわかったら、なるだけ洪水の来ない山の手に避けているのが一等だよ。洪水だ、洪水だ、とわめき立てて、自分で泥水のそばまで行っちゃ、逃げまわっているなんて、そもそも可笑しな話さ。だい一、見っともないじゃないかね。」
子路は、半ば感心したような、半ば憤慨したような、変な顔をして突っ立っていた。
「おや、そのお顔はどうなすったい。孔丘の仲間だけあって、お前さんも、よっぽど悟りの悪い人間らしいね。そう世の中に未練があっては、話がしにくいが、しかし五十歩百歩ということもある。あの殿様もいやだ、この殿様もいやだというところを、ちょいと一つ飛びこして、この世の中全体に、見切りをつけて見る気には成れないものかね。気楽に高見の見物が出来て、そりゃいいものだぜ。わッはッはッ。」
「しかし……」
と、子路は非常に真剣な顔をして、何か云おうとした。だが、桀溺はもうその時には、その円い尻をくるりと子路の方に向けて、せっせと種を蒔いていた。そして、それっきり、子路が何といおうと一言も返事をしなかった。