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ろんごものがたり

論語物語

下村 湖人

「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页

青空文庫

そして、1彼がかつて孔子に、死の問題について訊ねた時、孔子が、「生の真相がはっきりつかめないうちに、死の真相はわかるものでない。」

と答えたことを思い起した。

(死とは何ぞ、そんな事はわからなくてもいい。ただ死後に世界があって、いつまでも先生のお側についていることが出来さえすれば、それでいいのだ。)

彼はそんなことを思いつづけた。そして明日にも孔子と一緒に、遠い未知の世界に旅立てるような気になって、寂しい悦びにひたった。

しかし、それはほんの瞬間であった。彼は急に愕然として立上った。

(何だ、俺は先生の死を希っていたのか。)

彼は汚ないものでも払いのけるように、自分の胸を両手でかきまわした。それから、立ったまま、じっと病室の方に耳をすました。

病室はしずまりかえっている。彼は、今まで掛けていた椅子のまわりを、音がしないように歩きまわりながら、自分で自分の意気地なさを叱った。

(もう一度先生を元気にしないで置くものか。)

いつもの気性が、急に彼の体じゅうによみがえった。彼は、次第に自分の足音の高くなるのも忘れて、あれかこれかと、今後の看護の方法を考えた。