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ろんごものがたり

論語物語

下村 湖人

「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页

青空文庫

」

「何十年も?」

「わからぬかな、わしがこれまで祷りつづけた来たのが?」

門人たちは顔を見合せるだけだった。孔子は嘆息するように深い息をして眼をとじた。しばらく沈默がつづいたあと、孔子は眼をとじたまま更に訊ねた。

「祷るというのは、そもそも何をすることじゃな。」

「それは神々に自分の願いを……」

孔子は子路の言葉を遮ぎるように、再び大きく眼を見ひらいた。

「願い? ふむ、その願いというのは?」

「…………」

子路は、自分の考えどおりの答えをするのに躊躇した。それは、孔子の言葉の奥に何かしら深いものがあるのを、やっと彼も気がつき出したからであった。

孔子は云った。

「その願いというのは、私情、私欲から出たものであってはならないはずじゃ。むしろ私情私欲に打克って天地神明の心に叶おうとする願い、そうした至純な願いに生きることこそ、まことの祷りというものじゃ。そうではないかな。」

子路は石像のようにうなだれて立っていた。

「念のために云っておくが、わしは決して天地の神々を否定もしていなければ軽んじてもいない。神々を崇めていればこそ、その御心に叶うために、今日までたゆまず身を修めて来たのじゃ。