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ろんごものがたり

論語物語

下村 湖人

「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页

青空文庫

」

子路は、虎を搏ちそこねて、崖から真逆さまに落ちて行くような気がした。顔渕と閔子騫とは少し伏目になって、自分たちの前の床を見つめた。子貢の才気走った眼は、孔子と子路との間を何度も往復した。漆雕開はただもじもじと両手を膝の上でもんでいた。

するとまた孔子が云った。

「まあ、しかし、わしが三軍を指揮するようなことは恐らくあるまい。それよりか、わしは、いっそ筏にでも乗って海に浮びたいと思っているのじゃ。どうせ道を行う望みのない世の中に、ぐずぐずしているのもつまらないのでな。」

みんなはおどろいて孔子の顔を見た。孔子はにこにこしながら、

「さて、いよいよ海に浮ぶとして、わしについて来る者は、先ず子路だろうかな。」

子路は眼を輝かして次の言葉を待った。

「子路、どうじゃ。漂々として二人で海に浮ぶのも面白いではないか。わしもお前ほどの勇者についていてもらえば、安心というものじゃ。」

孔子はそういって子路をまともに見た。子路は感激で全身が蒸発しそうになるのを、やっと引きしめていた。

孔子はつづけていった。

「しかし、子路、筏に乗るにも、先ず安心の出来る筏の用意が大切じゃ。