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ろんごものがたり

論語物語

下村 湖人

「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页

青空文庫

夜着は肩のあたりでかすかにふるえていた。

「こちらにお通しいたしましても、よろしうございましょうか。」

召使いは、一歩臥床に近づきながら云った。

返事がない。

召使いは、しばらく首をかしげて思案していたが、独りで何かうなずきながら、そのまま部屋を出て、しずかに戸をしめた。

五六分が過ぎた。その間伯牛は、夜着の下でふるえつづけていた。すると、だしぬけに窓の外から孔子の声がきこえた。

「伯牛、わしは強いてお前の顔を見ようとはいわぬ。せめて声だけでも聞きたいと思って、久々でやって来たのじゃ。」

「…………」

「このごろ工合はどうじゃ。やはりすぐれないかの。だが、心だけは安らかに持つがいい。心が安らかでないのは、君子の恥じゃ。」

「先生、お……お……お許しを願います。」

伯牛は、むせぶように夜着の中から云った。

「いや、そのままで結構じゃ。お前の気持は、わしにもよくわかる。人に不快な思いをさせまいとするその気持は、正しいとさえ云えるのじゃ。しかし、……」

と、孔子は一寸間をおいて、

「5万一にも、お前がその病気を恥じて、顔をかくしているとすると、それは正しいとは云えない。