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ろんごものがたり
論語物語
下村 湖人
「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页
心の中を何もかもさらけ出して、孔子の教えを乞うつもりだったのである。ところが、孔子の室にはいると、例の腹の中の鼬が、つい、ものを云ってしまった。
「私は、先生のお教えになることに強いあこがれを持っています。ただ、私の力の足りないのが残念でなりません。」
彼は云ってしまって、自分ながら自分の言葉にちつとも痛切なところがないのに驚いた。
(何のために自分はわざわざ一人で先生に面会を求めたのだ。こんな平凡な事をいうくらいなら、いつだってよかったはすだ。先生も定めしおかしな奴だと思われるだろう。)
そう思って、恐る恐る彼は孔子の顔を見た。
孔子は、しかし、思ったよりも遙かに緊張した顔をしていた。そして、しばらく冉求をじっと見つめていたが、
「苦しいかね。」
と、いかにも同情するような声でいった。
冉求の鼬は、その声をきくと急に頭をひっこめた。そしてその代りに、しみじみとした感じが、彼の胸一ぱいに流れた。彼は、母の胸に顔をくっつけているような気になって、思う存分甘えて見たいとすら思った。
「ええ、苦しいんです。なぜ私は素直な心になり得ないのでしょう。いつまでもこんな風では、先生のお教えをうけても、結局駄目ではないかと存じます。