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ろんごものがたり
論語物語
下村 湖人
「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页
」
みんなが一せいに孔子を見た。それから視線は次第に宰予の顔に集った。宰予は、音のしない嵐の中で、体がくるくると舞っているような気がした。しかし、意識だけは、まだはっきりしていた。彼は早口に云い出した。
「遅刻いたしまして相すみません。しかし……」
「しかし?」
と、孔子が鸚鵡がえしに云った。宰予は二の句をつぐのに、一寸たじろいた。孔子は畳みかけて、
「もし昼寝の言訳ならば、よした方がいい。それは過ちの上塗をするばかりじゃ。」
宰予はすっかり狼狽した。しかし、そうなると、ますます何とか云わないでは居れないのが彼の性だった。
「実は……」
すると孔子の顔は見る見る朱を注いだ。
「宰予!」
と、彼は、宰予だけでなく、みんなの者に思わず頭を垂れさせたほど、悲痛な声で叫んだ。
「お前は過ちを三重にも四重にも犯そうというのか。それではお前はもう雨ざらしの材木か、ぼろ土で固めた塀も同然じゃ。雨ざらしの材木には彫刻は出来ぬ。ぼろ土の塀は、いくら上塗をしても、中から崩れるばかりじゃ。」
そう云って孔子は宰予から眼を放した。それから急に声を落して、
「つい大きな声を出して、みんなには済まなかった。