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ろんごものがたり

論語物語

下村 湖人

「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页

青空文庫

慾というのは、理非の弁えもなく、人に克とうとする私心を指していうのじゃ。天理に従って金を貯めるのは慾ではない。これに反して、かりに金には冷淡でも、私情にかられて人と争えば、それはまさしく慾というものじゃ。申※(「木+長」、第4水準2-14-94)は慾がきつい。あんなに慾がきつくては、剛いとは云えまい。」

門人たちは、慾というものがそんなものなら、なるほど申※(「木+長」、第4水準2-14-94)は慾がきついにちがいない、と思った。しかし、なぜ彼を剛いと云えないのかは、まだはっきりしなかった。で、不思議そうな顔をして、孔子を見守った。

「わからぬかの。」

と、孔子は歎息するように云った。

「剛いというのは、人に克つことではなくて、己に克つことじゃ。素直に天理に従って、どんな難儀な目にあっても、安らかな心を持ちつづけることじゃ。」

門人たちは、一せいに頭を下げた。すると孔子は笑いながら云った。

「しかし、お前たちはまだまだ申※(「木+長」、第4水準2-14-94)に学ぶがいい。申※(「木+長」、第4水準2-14-94)があんなに頑張るのも、金や権勢のためではなくて、天理を求めるためなのだから。