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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

と向き直って、落款を検めたが、ハッキリ読めない。社長の腰巾着として始終書画骨董のお太鼓を叩いている関係上、自然多少の興味がある。頻りに首を傾げていた。折から急勾配の階段を上って来る音が聞えたが、細工のある男だから、知らん顔をして絵に見入っている風を粧った。

「やあ」

と堀尾君が声をかけた時、

「これはこれは」

と初めて存在を認めたように半ば振り返った。

「はゝあ、御令兄に御対面中でございましたな」

「うむ?」

「そこにいらっしゃる」

と堀尾君は蝦蟇仙人を指さした。

「ひどいことを言う男だな」

と鳧さんは苦笑いをする外なかった。

「いや、失礼申上げました」

「いや」

「御近所へ引っ越して参りまして、未だお伺いも致しません」

「いや、僕こそ。忙しいので、まあ/\、それはお互さ」

「今日はようこそ」

「御来客があるんじゃないかね?」

「いや」

「それじゃ少時お邪魔をさせて戴く」

「何うぞ御ゆっくり」

「一遍伺いたいと思っていたところだったから」

「丁度よく用件が起りまして」

「堀尾君」

「何ですか?」

「僕は文句を言いに来たんじゃないよ」

「はあ」

「しかし君も少し考えてくれなくちゃ困る」

「はあ」