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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

「何う致しまして。私こそつい埓を外して御無礼申上げました」

「それじゃもう失敬する」

「まあ宜しいでしょう?」

「いや、この上はお邪魔だろう。綺麗なお客さんが見えているようだから」

「…………」

「気が強い筈だ」

「恐れ入りました」

「ハッハヽヽ」

「ハッハヽヽ」

「些っと夜分でもやって来給え」

と鳧さんは案外機嫌好く帰って行った。玄関まで見送った堀尾君も鄭重を極めた。美事勝ったような気もしたが、結局負けたような気もした。何方にしても詰まらないことをしたという感じが先立って、甚だ不愉快な心持だった。

「あなた、大丈夫?」

と道子さんが寄り添った。

「さあ」

と堀尾君は突っ立ったまゝ、未だ考えていた。

「あなたがお悪いのよ」

「何故?」

「些っとも下役らしい態度をお取りにならないんですもの」

「一個人と一個人の対等関係です」

「然うは参りませんわ。全く一個人と一個人なら交渉はない筈じゃありませんか? あゝして御親切に仰有って下さるのは同じ会社に勤めているからでございましょう?」

「それは無論それだから交渉があるんですけれど」

「同じ会社に勤めている上役と下役の一個人と一個人じゃございませんか?」