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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

後輩は恩を受けた為めに却って先輩と気まずい関係になる場合がある。先輩は好い面の皮だけれど、浮世の定め、是非もない。これは丁度その適例だった。堀尾君は今更拝趨の面皮も無之候と書いて恐惶頓首、真に申訳ない次第だった。道子さんへは有りのまゝを詳しく認めて、善後策を講じますから明日でも明後日でも学校のお帰りに一寸お立ち寄り下さいと頼んだ。

身体が空いて見ると楽だった。朝時間を切って起きる必要がない。八九十と約三月勤めた。暑中休暇の長さぐらいで、もう一段落だ。

「何うもいけない」

と思った。

「こんなことになるなら……」

と翌日一日、やればやり得た術数が頭にこびりついていた。忘れていたが、俸給日だった。晩に安川君が金五十五円と積立金二月分五円五十銭と辞令を持って来てくれた。

「よく/\の因縁だよ。初めからいけなかったところへ無理に入ったんだから」

と堀尾君は今更春の詮衡を思い出して、斯うなるのを当然のようにも考えた。

その翌朝、道子さんから返事を期待したが、郵便は一通も来ない。学校の帰りに寄るのだろうと解して昼過を当てにしていたら、今度は手紙が着いた。成り行きで仕方ありませんと諦めてくれている。